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第16回 降雪 |
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| 11月の最終日、日高一帯に大雪が降った。そろそろ雪を見てもおかしくない時期ではあったが、例年より少し早く、また積もった雪がなかなか消えようとしない。 ――いやいや、この時期に積もるのは珍しいな。 地元の生産者が僕に言った。 ――こりゃ、しっどい(ひどい)冬になるかも。 彼の顔には苦笑いが浮かんでいた。 雪の降った朝、岡田繁幸さんが東京へ行くと聞かされていた。午後から会合があるらしく、10時くらいの便で千歳をたつ予定とのことだった。 ちょっと確かめたいことがあり、携帯に電話を入れたのが8時半だった。電話に出るなり、げんなりした様子で岡田さんはこう話した。 「雪がひどいから早めに出たんですけど、まだ富川なんですよ。渋滞してて、ぜんぜん動かない。2、3台追い越しても、その先がつまってるから、効果ないんですよねえ。まいりましたわ」 岡田さんは結局、鵡川あたりで行くのをあきらめ、静内へUターンしたという。人騒がせな雪は翌日いっぱい降り続き、それから1週間ほど放牧地に残った。 ここまでを読んで、「あれっ、いつもと感じが違うな?」とお気づきになった方はいるだろうか。もしそうであれば、僕にとってはこの上なく嬉しいことで、この連載を熱心に読んでいただいていることになる。実は、11月から12月にかけて、1カ月あまりを静内で過ごした。月に1回、取材に出かけていたこれまでとは違い、ずっと現地にいたから、今回の文章には「時の経過」を加えることができたのだ。 やはり今年は冬が早いのか、12月に入って北海道は一気に寒さを増した。よそ者の僕ににとっては、なにより車の運転が恐くなるから、ゆううつな時期でもある。そしてもうひとつ、4時を過ぎればすでにあたりが真っ暗に変わるから、一日を短く感じて仕方がない。 あとは酒を飲むだけ。 どうしてもそうなってしまうではないか。 師走を迎え、いくら雪が降っても、フランクの調教が滞ることはなかった。あいかわらず平然とした顔つきで、屋内馬場でのキャンターを消化していった。 ビッグレッドファーム明和では、この季節になると坂路が使えなくなる。下が凍って馬にも人にも危険きわまりないから、屋内馬場をメインにせざるをえないのだ。
ただ、ひと冬で考えると、その費用もバカになりません。ウチでは一番安い粗塩を使ってますけど、それでも500万はかかりますから」 マネージャーの蛯名さんがそんなことを僕に教えた。 別件の取材でバタバタしており、フランクの走りをつぶさに見ることができたのは、冬至を数日後に控えた木曜の朝だった。気持ちよく晴れ上がった空を背景に、常歩(なみあし)でウォーミングアップしたあと、7〜8頭の仲間と共にフランクが屋内馬場へと入っていく。 最近、その背中には榎並健史さんが姿がある。若駒の馴致に、全体の指導にと末松さんが忙しいので、彼へとバトンタッチされたのだ。 22歳とまだ若いが、オーストラリアの乗馬学校で基礎を学んだだけあって、榎並くんの騎乗姿勢は僕の素人目にもかっこよく見える。きっとその技術が評価されて、末松さんが指名したのだろう。 去年の末松さん同様、今は榎並くんもプレッシャーを感じているに違いない。心境については、今度またゆっくり尋ねてみたいと思っている。 屋内馬場に末松さんの姿があった。さっそく近寄り、最近のフランクの様子を訊いた。 「まあ順調のひとことですね。とにかく体力があるから、同じ1歳馬との調教だとペースが遅すぎるんですよ。だから、週に何日かは、古馬のグループに入れて走らせてます。社長も『もっと速いところをやってみろ』って言いますしね」 末松さんの笑顔がこちらを見た。 馬場の内側に入って調教を見学した。自分のまわりを馬が走ることになるから、ちゃんと見るには、顔や体をこまめに回転させなければならない。
フランクは隊列の中団にいた。前回見たときには先頭を走っていたから、日によって位置が変えられているようだ。末松さんが言うとおりスピードが違うのか、ちょっと行きたがっているように見える。榎並くんは手綱をグッと体の方に引きつけたままだ。 ペースを上げ、それから5周を走り、やがて先頭の馬がスピードを落とした。調教終了の合図だった。蹄の砂を叩く音がなくなり、馬場全体がシンと静まりかえった。見ている方にしてみればアッという間だが、坂路と違って平らな馬場を走らせるのは、乗る者にとってはかなりの体力が必要になる。 馬場の出口へと馬たちが歩いてきた。乗り味を榎並くんに尋ねた。 「いやぁ、いいっすよ」 満面の笑みと共にひとことだけ残し、榎並くんとフランクは洗い場へと引き上げていった。 |
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。。筆者プロフィール
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