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企画科  夢の手ざわり
 あのSS産駒の愛と感動の成長ドキュメント

 月1回掲載

 感動しすぎにご注意ください


 2000年のセレクトセールで3億2000万円という高値で取引されたフランクアーギュメント2000(父サンデーサイレンス)を密着取材している成長ドキュメント。一頭の仔馬がどのような過程を経て、競走馬として成長していくのかがよくわかるはずだ。

じつは昨年の夏、「フランク」に会ってきたんですよ。なかなかいいヤツでねえ。素直でかわいいし、素人目にも馬体はアカ抜けて……ひと目ボレでした。なのに先日(2月)骨折しちゃって……。でも彼ならこの試練を乗り越えてくれるに違いないです。今後の動向に要注目です。人間と馬との関わりをしっかりとらえた河村さんの文章がイケてます。


特別企画

夢の手ざわり

 第16回   降雪


 11月の最終日、日高一帯に大雪が降った。そろそろ雪を見てもおかしくない時期ではあったが、例年より少し早く、また積もった雪がなかなか消えようとしない。
 ――いやいや、この時期に積もるのは珍しいな。
 地元の生産者が僕に言った。
 ――こりゃ、しっどい(ひどい)冬になるかも。
 彼の顔には苦笑いが浮かんでいた。
 雪の降った朝、岡田繁幸さんが東京へ行くと聞かされていた。午後から会合があるらしく、10時くらいの便で千歳をたつ予定とのことだった。
 ちょっと確かめたいことがあり、携帯に電話を入れたのが8時半だった。電話に出るなり、げんなりした様子で岡田さんはこう話した。
「雪がひどいから早めに出たんですけど、まだ富川なんですよ。渋滞してて、ぜんぜん動かない。2、3台追い越しても、その先がつまってるから、効果ないんですよねえ。まいりましたわ」
 岡田さんは結局、鵡川あたりで行くのをあきらめ、静内へUターンしたという。人騒がせな雪は翌日いっぱい降り続き、それから1週間ほど放牧地に残った。

 ここまでを読んで、「あれっ、いつもと感じが違うな?」とお気づきになった方はいるだろうか。もしそうであれば、僕にとってはこの上なく嬉しいことで、この連載を熱心に読んでいただいていることになる。実は、11月から12月にかけて、1カ月あまりを静内で過ごした。月に1回、取材に出かけていたこれまでとは違い、ずっと現地にいたから、今回の文章には「時の経過」を加えることができたのだ。
 やはり今年は冬が早いのか、12月に入って北海道は一気に寒さを増した。よそ者の僕ににとっては、なにより車の運転が恐くなるから、ゆううつな時期でもある。そしてもうひとつ、4時を過ぎればすでにあたりが真っ暗に変わるから、一日を短く感じて仕方がない。
 あとは酒を飲むだけ。
 どうしてもそうなってしまうではないか。

 師走を迎え、いくら雪が降っても、フランクの調教が滞ることはなかった。あいかわらず平然とした顔つきで、屋内馬場でのキャンターを消化していった。
 ビッグレッドファーム明和では、この季節になると坂路が使えなくなる。下が凍って馬にも人にも危険きわまりないから、屋内馬場をメインにせざるをえないのだ。
外はすっかり雪化粧。フランクの調教は屋内馬場がメインになる。
「明和の馬場は1周が500mありますから助かります。たとえば真歌トレーニングパークでは、ほかの馬場が小さいですから、坂路に塩をまいて乗ってるんです。塩で凍結はかなり防げるんですよ。
 
ただ、ひと冬で考えると、その費用もバカになりません。ウチでは一番安い粗塩を使ってますけど、それでも500万はかかりますから」
 マネージャーの蛯名さんがそんなことを僕に教えた。
 別件の取材でバタバタしており、フランクの走りをつぶさに見ることができたのは、冬至を数日後に控えた木曜の朝だった。気持ちよく晴れ上がった空を背景に、常歩(なみあし)でウォーミングアップしたあと、7〜8頭の仲間と共にフランクが屋内馬場へと入っていく。
 最近、その背中には榎並健史さんが姿がある。若駒の馴致に、全体の指導にと末松さんが忙しいので、彼へとバトンタッチされたのだ。
 22歳とまだ若いが、オーストラリアの乗馬学校で基礎を学んだだけあって、榎並くんの騎乗姿勢は僕の素人目にもかっこよく見える。きっとその技術が評価されて、末松さんが指名したのだろう。
 去年の末松さん同様、今は榎並くんもプレッシャーを感じているに違いない。心境については、今度またゆっくり尋ねてみたいと思っている。
 屋内馬場に末松さんの姿があった。さっそく近寄り、最近のフランクの様子を訊いた。
「まあ順調のひとことですね。とにかく体力があるから、同じ1歳馬との調教だとペースが遅すぎるんですよ。だから、週に何日かは、古馬のグループに入れて走らせてます。社長も『もっと速いところをやってみろ』って言いますしね」
 末松さんの笑顔がこちらを見た。
 馬場の内側に入って調教を見学した。自分のまわりを馬が走ることになるから、ちゃんと見るには、顔や体をこまめに回転させなければならない。
屋内馬場でのフランクと榎並さん。体力も十分で順調な調整ぶり。
 まずは2周、馬たちはダグを続け、速歩(はやあし)をへてキャンターに移った。
 フランクは隊列の中団にいた。前回見たときには先頭を走っていたから、日によって位置が変えられているようだ。末松さんが言うとおりスピードが違うのか、ちょっと行きたがっているように見える。榎並くんは手綱をグッと体の方に引きつけたままだ。
 ペースを上げ、それから5周を走り、やがて先頭の馬がスピードを落とした。調教終了の合図だった。蹄の砂を叩く音がなくなり、馬場全体がシンと静まりかえった。見ている方にしてみればアッという間だが、坂路と違って平らな馬場を走らせるのは、乗る者にとってはかなりの体力が必要になる。
 馬場の出口へと馬たちが歩いてきた。乗り味を榎並くんに尋ねた。
「いやぁ、いいっすよ」
 満面の笑みと共にひとことだけ残し、榎並くんとフランクは洗い場へと引き上げていった。



12月20日取材)




フランクアーギュメント2000
血統表
フランクアーギュメント2000 牡 青鹿毛 2000年4月9日生 早来・ノーザンファーム生産
 2000年7月10日のセレクトセールにて、ビッグレッドファーム代表・岡田繁幸氏が3億2000万円という高額で落札し、一躍脚光を浴びた当歳馬。「馬産地一の相馬眼を持つ」と言われる岡田氏は、競走馬としてはもちろん、サンデーサイレンスの後継種牡馬として、その素質を高く評価し、購入に踏み切った。
 母フランクアーギュメントは仏で3勝をあげた。兄弟には、米G1を2勝したフランクリーパーフェクト(種牡馬)がいる。その父アーギュメントからカウトケイノへとさかのぼる系統は、日本ではなじみが薄いが、「筋肉の質がサンデーサイレンスに似ている」と岡田氏は言う。
 日本で生まれた産駒は、このフランクアーギュメント2000が4頭目。97年産・フランクガイ(父シアトリカル、伊藤伸一厩舎)は体質の弱さから育成・調教が思うように進まず、5戦未勝利で引退してしまったが、2001年4月にデビューしたアドマイヤロード(98年産・牡4歳、父サンデーサイレンス、橋田満厩舎)は、現在4勝を挙げている。また、99年産にはアドマイヤセラヴィ(牝3歳、父サンデーサイレンス)がいる。



。。筆者プロフィール
河村清明(かわむら・きよあき)
昭和37年、山口県宇部市生まれ。会社勤めを辞めた平成8年に「優駿エッセイ賞」を受賞、以降、馬産地での取材活動を中心に執筆活動を展開している。フランクアーギュメント2000とはセレクトセールで出会い、何があっても動じない精神力に、「値段以上の名馬かもしれない」と期待を寄せている。著書に『蹄跡に刻む夢---仔馬と過ごした2年間』(メディアファクトリー刊)がある。
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